こんにちは、takeです。
今回は私の仕事に関連する話題です。
以前、射出成形技能検定の概要を紹介したことがあります。
私はプラスチック製品の成形工場で仕事をしていまして、扱っている成形方法は射出成形というものです。
射出成形には技能検定があり、今回は検定試験のうち実技試験について、試験対策をまとめていきたいと思います。
当初の予定では昨年私は本試験を受けるはずだったのですが、体調不良のため試験を受けることができませんでした。
ただ実技試験を通過するため、試験対策はしてきました。
対策をするなかで大切だと感じたのは、実際に試験を体験した方の経験談を知っておくことです。
試験内容は毎回同じ内容なのですが、実技試験を突破するためにはただ決められたことを丸覚えして、実行に移すだけでは合格できないことが多々あります(※丸覚えで大丈夫な場合もあるようですが)。
実技試験の肝は良品サンプルを採取するための成形条件を導きだすことです。
しかし、この成形条件というのが決まったものではないのが難しいところ。なぜなら成形条件は成形機や金型、材料、室温、湿度等、様々要因が絡み合って構成されています。
普段の仕事で成形している量産品は試作時に標準条件を確定し、生産するときは条件表通りに成形すれば不具合が出ることはほとんどないと思います。
しかし、試験で成形する製品はかなりデリケートな製品であるためか、条件調整がシビアでして、そのときに合った条件を導き出す必要があるのです。
本記事では実技試験の中でも一番の肝となる、成形条件の導き出し方を解説していきます。
※本記事は技能検定2級の内容です
試験の流れ
試験は金型を成形機に取り付けるところから始まり、二種類の材料を使って製品サンプルを採取し、金型を取り外すところまでが試験内容です。
もう少し詳しく流れを解説すると次のようになります。
①金型を成形機に取り付ける [24min.]
②加熱シリンダーの材料をPEからPSに置換する [16min.]
③材料PSを用いてサンプルを20ショット採取する [39min.]
④加熱シリンダーの材料をPSからABSに置換する [11min.]
⑤材料ABSを用いてサンプルを20ショット採取する [32min.]
⑥加熱シリンダーの材料をPEに置換する(PEに置換されたことを示すサンプルを3ショット採取する)[35min.]
⑦金型を成形機から取り外す [10min.]
⑧作業完了報告 [計167min.]
※[ ]内の時間は合格者の平均作業時間
今回解説するのは③と⑤で必要となる成形条件の導き出し方です。
成形するサンプル
成形する製品サンプルは箱型のものです。
中身は空洞で段差が3段ついている形状です。
図面を記載することができないので大まかに下のような形であると認識してください。
成形条件の基本形
まずは基本となる成形条件を記述します。
材料PSのとき
金型水温調機温度
固定側 40℃ 可動側 30℃
シリンダー温度
[ノズル] NH2 NH1 H4 H3 H2 H1 HP [ホッパー下]
200 200 210 200 190 180 50 (℃)
射出圧力 150MPa 射出速度 90mm/s
保圧切換位置 10mm 保圧 60MPa
射出保圧時間 15s 冷却時間 20秒
計量完了位置 70mm 計量回転速度 150rpm
背圧 10MPa サックバック 1mm
ノズル後退時間 5s
※例に挙げている成形機は日本製鋼所JSWです。使用する成形機によって、表記等が異なる場合があります。
計量完了位置はスクリュープランジャー径32Φの場合です。
材料がABSの場合はシリンダーの温度をプラス10℃にした時が基本条件となります。
PSとABSでは比重が異なりますが、計量値は同じで問題ありません。
計量値70mmの内訳は製品分62mm、クッション分8mmです。
サンプル採取方法
サンプルの採取方法にはルールがあり、まずショートショットを5ショット、充填量を徐々に増やしたものを成形します。
その後、良品サンプルを20ショット成形します。
ショートサンプル採取
ショートサンプルを取るときは手動運転でやります。
理由は時間短縮のためです。
通常は条件通りに自動で機械を動かし、毎回同じ条件で成形しますが、ショートサンプル作製では、適切な計量値を求めることが目的です。
そのため、保圧時間や冷却時間をかける必要はありません。
手動の動作の流れは次の手順です。
計量 → 型閉 → 射出ユニット前進(ノズルタッチ) → 射出 → 計量 → 射出ユニット後退 → 型開 → エジェクタ前進 → 製品取り出し → エジェクタ後退 → VP切換位置変更 → 型閉 → ・・・・
ショートサンプル作製時は計量時間で十分に樹脂は固まるので、冷却時間を考慮する必要はありません。
VP切換位置は35mmからスタートします。そこから充填量を増やしたサンプルを取るため、5mmずつ位置を前進させます。(①35mm②30mm・・・⑤15mm)
理論上VP切換位置8mmが完全充填の位置なので、10mm程度までであれば問題はありません。しかし、もし完全充填した場合はショートサンプル採取を最初からやるはめになるので気を付けましょう。
良品サンプル採取
ショートサンプルの採取が終わったら、VP切換位置を10mmに変更し保圧をかけていきます。
保圧は30MPaからスタートさせます。
保圧を低圧からスタートさせることはルールとして決まっています。(オーバーパックを防ぐため)
ただ実際は保圧が30MPaではヒケが発生するので、保圧を上げる必要があります。
保圧の上げ幅は10MPaずつ上げます。
最終的には60MPa程度でヒケは改善されます。
その他、異常がなければこのまま製品サンプルを20ショット取り完了です。
不具合対策
実技試験対策で重要なのはここからです。
ここまでで紹介したやり方は基本形であって、必ずしもこの条件で良品が取れるとは限りません。
ここからはサンプル採取作業の注意点と想定される不良の対策をまとめていきます。
作業の注意点
半自動成形中、射出ユニットが後退したら樹脂のハナタレをウエスで取り除く。
樹脂の特性上、ハナタレを引き起こしやすいです。そのため、都度ハナタレを取り除かないと、製品が固定側にとられる原因となります。
肉厚部のヒケ
先にも記述しましたが、保圧が低い場合肉厚部にヒケが発生します。
ヒケは保圧を上げることで改善するので、ヒケがなくなるまで保圧を上げます。
60MPaでもヒケが発生する場合はそこからは5MPaずつ上げて調整していきましょう。
ヒケの原因は保圧不足です。
保圧が適切にかからない要因として、射速による充填量が少ない場合があります。
保圧を上げてもヒケが改善しない場合、VP切換位置をさらに前進する必要があるかもしれません。
ゲート付近の割れ
割れの原因はいくつかあります。
・ノズル先端のハナタレの固化
スプルーがノズルと強くくっつき引っ張られています。
→毎回計量が終わったら、ウエスでハナタレを取り除く。
・冷却不足
冷却時間が短いと、製品の収縮が十分でなく、製品が固定側に引っ張られやすくなります。
→冷却時間を延ばします。(+3~5s)
・過度な保圧
保圧を上げすぎるとゲート付近に過度な圧力がかかり割れます。
→上記二点の対策を行っても割れる場合は保圧を下げる(-5MPa)必要があるかもしれません。
ウェルドラインの形
ウェルドラインがY字になっている場合は条件調整の必要があります。(製品の強度が悪くなるため)
対策①
射出時間長くする。(+5s)
対策②
射出時間を長くしたうえで、保圧を下げる。(-5MPa)
ヒケの発生に注意。
対策③
射速を上げる。(+10mm/s)
ウェルドラインの形は樹脂の流れ方が変えることで変形します。
射出時間の調整や速度/圧力を変えるといった方法があります。
シルバーストリーク
シルバーが発生したら、背圧を上げる必要があります。(2~5MPa)
背圧を上げると、ノズルからのハナタレが悪化しますがシルバーを改善するには背圧を上げるしかないので、射出ユニット後退時の樹脂の拭き取りはより重要になってきます。
コールドスラグ
コールドスラグ対策としてノズル温度を上げる方法があります。(+5℃)
しかし、ノズルからのハナタレが悪化する原因にもなります。
コールドスラグを完全に防ぐことはあまり考えず、サンプルにコールドスラグが発生した場合はある程度は諦めて、サンプル採取を続けるのも一つの手法です。
さいごに
完全に私の覚え書きの記事でした。
射出成形技能士でない人にはさっぱり分からない内容でしたね。
でも身の回りにあるプラスチック製品は射出成形によって作られているものがたくさんあるんですよ。
射出成形特有の跡が残っているので、すぐに分かります。
またそんな話も気が向いたら記事にしていこうかな。
ではでは🇻🇳